サンフランシスコ報告 その5

サンフランシスコのNPOが運営する“C5 Children’s School”

2009年9月7~14日、カリフォルニア州サンフランシスコ視察ツアーに参加。滞在4日目、9月10日午前、NPOが運営する保育所を訪れた。名称は“C5 Children’s School”。正式名称“The Civic Center Child  Care Corporation”の頭文字Cが5つ重なるところから、こう呼ばれているらしい。保育所は、州が管理する建物の中にあって、入り口では金属探知器・手荷物透写があり、セキュリティチェックは厳重である。

C5 Children’s School その1

C5 Children’s School その2

保育所の設立は1985年。両親のボランティアグループと、州政府の職員たちによって設立された。州政府に勤めている家庭の子どもが優先的に入所できるそうで、3分の1の子がそれに該当する。最初は2ヶ月~3歳児を対象としていたが、1999年に、プレスクールセンター開設し、就学前までの児童を対象とするようになった。

保育料は、2ヶ月~3歳児:月額1,851ドル、18~36ヶ月児:月額1,683ドル、36ヶ月~就学前(5歳):月額1,486ドルとなっている。アメリカの公務員の収入は、職務の内容によってかなり格差があるらしいが、平均月収は4,000~5,000ドルと聞いている。収入の約3分の1が保育料となる。円換算で13~16万円(1ドル=90円)。

日本では、低年齢児の保育料が8万円程度ということだが、アメリカの物価水準やほとんどの家庭がダブルインカムということ考えれば妥当な価格なのかもしれない。何より、それだけの費用を出しても子どもを通わせたいと思うような魅力的な保育所なのだと言うことで納得できる。

運営は、上述の保育料で多くをまかなっている。その他、ファンドレイジング(資金調達:寄付や助成金等)で4~5万ドル集めるそうだ。大口の寄付もあるが、多くは親のネットワークで50~100ドルといった小口の寄付だ。家賃は1,300ドル、修理はしてくれるが、家具は購入しなければならない。

C5 Children’s School その3

C5 Children’s School その4

カリキュラムには、イタリアの進んだ教育方法を取り入れ、スタッフは専門的なトレーニングを受けている。子どもに何か強制するのではなく、自由な活動の中から学ぶという姿勢ではあるが、単に子守りをするのではなく、子どもの成長に寄与することを目的としている。子どもとは対等に会話をし、お手本に心がけている。食事やおやつは有機食品を使用している。

保育室は雑然とはしているが、原色のおもちゃは少なく、ホンモノと同じような物が置かれている。音楽教育にも力を入れている様子で、小振りのギターやタンブリンなどで遊んでいる子どもも見かけた。

また、同じフロア(1F)には広いホールがあり、そのビルで働いている大人たちが食事をしたり、ミーテイングをしたりしている。ホールの外側は運動場になっていて、保育所の子どもたちはホールの中をきちんと並んで通り抜け、運動場に向かう。大人は子どもたちが遊ぶ様子を眺めることができ、子どもたちは大人たちが働いている様子を見ることができる。

NPOだからこそできるユニークな教育方法や取り組み。また、それを受入れ、支援する州政府の方針にアメリカを感じることができる。

女性と仕事研究所 主任研究員 甲田恭子

サンフランシスコ報告 その4

サンフランシスコの女性センター ≪Women’s Building≫

新年おめでとうございます。

今年の年賀状の写真は、昨年9月に訪問しましたサンフランシスコのWomen’s Buildingの正面玄関です。サンフランシスコ報告第4回は、このWomen’s Buildingについてです。

1971年スタート、40年の歴史

Women’s building 玄関左(09年9月10日写)

Women’s building 玄関左(09年9月10日写)

この建物のスタートは1971年です。1960年代のアメリカフェミニズムの流れのなかで、女性と女の子が完全で平等な活躍ができる社会を確立するために必要なツールと資源を提供しようと設立されました。

はじめはサンフランシスコ・ベイエリアの女性のプロジェクトを進める活動が中心で「サンフランシスコ女性センター(SFWC)」といいました。その後活動の拡大とともに、先見の明のある女性たちは1979年に建物を購入し、女性が所有し管理する活動拠点をつくりました。それ以来、このビル(TWB)は170以上の女性の活動組織を生み出してきました。家庭内暴力・性暴力のサバイバーの最初の避難所でありカウンセリングなどの支援もしています。カリフォルニア女性財団、LYRIC(ラベンダーYouth Recreation Informationセンター)や音楽や舞踏の団体支援もしています。1994年に、TWBは広範囲な改造工事をし、7人の女性アーティストによる女性の壁画の完成で、いままで以上に明確なメッセージ性を伝えています。毎年10,000人以上がここでのサービスやトレーニングを受けたり、イベントに出席しています。またここでは女性の運動の歴史も文書化しています。アーカイブはゲイとレスビアンHistory協会が保管しています。閲覧もできます。

7人の女性アーティストによる女性の力強さや勇気ある貢献を讃える壁画

壁画 その1

壁画 その2

この壁画のテーマは【マエストラピース(平和への芸術)】です。女性の力強さと気高さを象徴しています。上の女性はノーベル平和賞を受賞したガテマラのマヤ族のリゴレッタ・メンチェさん。下は次世代の女性を懐胎する「創造の女神」です。両端はカリフォルニア先住民オローニ族の女性です。この壁画を描くT-シャツやノートなども販売しており、活動の資金源にもなっています。

男性を排除するのではなく、包容し、教育するフェミニスト運動の拠点です。この建物、現在はずいぶん周りの木々が生い茂って上の写真ほど全景が見えませんでした。

同じ女性センターとは言え、日本は自治体の施設で、自治体の意向に沿う形で女性の活動が行われているともいえます。これを本当の女性の運動といえるのかは多少疑問です。建物の買取りや改造、所有、運営をやり遂げ、ボードメンバーが経営しながら運動の拠点になり続ける女性の力はたいしたものだと思います。

Women’s Building

私たちの講演と交流

このWomen’s Buildingで私たちの講演と交流会が行われました。コミュニティカレッジの在学生や難民のための活動をしている女性、日本の現状に興味を持つ人たちが来てくれました。タイトルは「日本の女性の働く現状―北欧や韓国との比較」でした。金谷は「日本では人口減少が課題だといわれていますが、女性が働くことと子育てが両立できる政策が出現すれば可能だと思う」とか、「女性の再就職や転職、若年者のスキルアップにいわゆるセーフティネットとしてのコミュニティカレッジが必要だ」といいました。甲田は昨年5月訪問した北欧の中でもスウェーデンでは、高いキャリアの女性たちも子育てを楽しんでいると報告しました。

その後の質疑応答で活発な交流ができました。

金谷

金谷

甲田

甲田

金谷と甲田の講演内容は下から(PDFファイル)ご覧下さい。
→金谷
→甲田

人材育成学会第7回年次大会で3人で発表しました。

日時:2009年12月13日(日)
会場:杏林大学医学部付属病院 杏林大学医学部講義棟

大会テーマ:ワーク・ライフ・バランス支援による個人の成長と組織の成長

第6セッション: 「コミュニティ重視とワークライフバランス」
○三木佳光(キャリア創研)
○金谷千慧子(女性と仕事研究所)
○鈴木雄―(埼玉県労働者福祉協議会・キャリアアドバイザー)

第1部は、ビジネス論理ではなく、「コミュニティ論理」を重視することは、従来ワークではないと言われていたシャドウの仕事を重視することでもあり、子育てや労働条件の改善などの労働行政志向のWLBの追及のみの視点でなく、個人が生涯にわたって自己実現できるコミュニティ(実践協働の場)の形成」こそ重要である、という総論(三木)。

第2部は、コミュティ論理にはジェンダーの視点がまず必要であり、個を活かし、組織を変えるジェンダー・マネジメントが必須です。また、フェミニン・リーダーシップやメンター制度を導入できるように女性にエンパワメントやアサーティブトレーニングの実施が効果的であるというのが各論1(金谷)。

第3部は最後に働く側の視点で、WLBの真の目的は「人間らしい生き方・働き方の課題をコミュニティ論理で解決すること」を提言しました。福祉=幸福のために必要な資源であり、4つの資源が必要だと言うことです。4つとは①所得:賃金と社会保険と社会保障給付、②時間:育児休業・余暇・介護休暇・社会参加など ③社会サービス:保育・学童保育・介護支援など ④人と人との関係(ソーシャルキャピタル)です。これらを実現していくためにコーディネート力を持つ新しいリーダー像の構築が重要というのが各論2(鈴木)。

本大会のテーマの趣旨は、以下の通りです。ワーク・ライフ・バランスの支援が、社員が希望する生活を実現することや仕事以外の家庭や地域での役割を果たし、長期的な視点で自己啓発に努めることをもたらすことなどが知られています。そして結果として組織貢献に繋がることも理解されています。ワーク・ライフ・バランスを推進していくためには、職場のママジメント改革が欠かせません。従来のママの職場でワーク・ライフ・バランス制度を導入しても、活用されません。そこで今年度は職場のマネジメント改革に加えて、経営者や推進者、社員がどのような取り組みをすればいいかをディスカッションする場になりました。(3人の発表内容は・・・)

今回発表した3人は、時間の少なさもありましたが、今後更に深め、広めていくために研究会を実施していこうと考えています。

→発表で使用したスライド (PDFファイル)

銀杏並木

銀杏並木(淀屋橋)

淀屋橋の銀杏並木

サンフランシスコ報告 その3

サンフランシスココミュニティカレッジ、ダウンタウンキャンパス
SanFrancisco Community College Downtown Campus

今回は第3回目です。

09年9月スタディツアーでサンフランシスコに行きました。コミュニティカレッジ(San Francisco Community College Downtown Campus Oda’s class  and Culinary & Service Skill training Program)やNPOの保育園(C5 Children’s school)、ファッション専門学校(Fashion Institute of Design & Merchandising,  San Francisco Campus), NPOの資金確保のセミナー(Fund Raising Basic: Ms. Susan Fox)女性のための起業支援(Women’s Initiative fir Self-Employment)、国内DVと国際的な迫害を受けた女性の支援国際シンポジウム(Gender-Based Violence Conference) の参加やWomen’s Buildingでのアメリカと日本の女性とのミーテイングなどがありました。

レストランの宣伝写真(たばこを吸えるところもある)

レストランの宣伝写真(たばこを吸えるところもある)

1 同行の五十田光宏氏のSan Francisco Community College Downtown Campus感想

2009年10月22日号の堂島通信にスタディーツアーの感想を寄せておられる。

特に考えさせられたのは、サンフランシスコ・コミュニティーカレッジ・ダウンタウンキャンパスへの視察です。コミュニティーカレッジは、地域が支え、その地域の住民、税金を払って住んでいる人たち(さらに将来税金を払う移民)への高等教育及び生涯教育の場として設けられたものです。

 特に印象に残ったコミュニティーカレッジの下記のような特徴です。
 1.受講料は、無料または1講座3ドルからの低料金
 2.職業訓練を主とした編成(実践的な職業訓練プログラム)
 3.地域の人材ニーズに対応している

これらは、移民の人達のアメリカ社会に参画する最初のステップにつながり、さらに職種間の移動の障壁を低くすることへの役割を果たしています。
コミュニティーカレッジは、停滞する現在の日本社会の中で、女性・非正規労働者・若年層の雇用問題を解決するための一つのヒントになるのではないかと思いました。このスタディーツアーの参加を通じ私は、海外から日本の社会構造を客観的に見ることの大切さを痛感しました。

トレーニング中の学生Culinary & Service Skill training Program (ケーキクラス)

トレーニング中の学生Culinary & Service Skill training Program (ケーキクラス)

 

Oda’s class(コンピュータークラス・障害者用のコンピュータ)

Oda’s class(コンピュータークラス・障害者用のコンピュータ)

2 米国のコミュニティカレッジ

アメリカへ行くのにわざわざコミュニティカレッジの視察にいく人はそう多くないといわれる。あまりにもありふれた風景で、ことさら視察に来ることを想定もしていないようである。特に1970年代以降やり直しのできるコミュニティカレッジはアメリカの人材育成の基本となっていった。編入カリキュラムを持つ公立のコミュニティ・カレッジはアメリカでは重要な高等教育機関のひとつであり、たくさんの学生が通っている。

「コミュニティ・カレッジ」という名前の起源は、デンマークからの移民が、母国の成人のための社会教育の機関、市民大学(フォルケホイスコーレ、Folkehoejskole )を元に始めたものと言われている。デンマークのそれは、グルンドヴィという作家で政治家だった人が始めたもので、これは北欧からドイツ、イギリスなどのそれぞれ形態を若干変えて広まっている。デンマークのものは、学歴、資格は一切付与しないもので、教育制度の中の諸大学とは競合しないとてもユニークなものである。

アメリカ中にある約2000以上のコミュニティ・カレッジのほとんどは公立で1200万人以上がパートタイム・フルタイム学生として在籍している。コースは200以上ある。そのうち6~7割は仕事をしながらキャリアップや転職にむけて学んでいる。アフリカ系の47%、ヒスパニックの56%がコミュニティ・カレッジで学んでいる(2005年度)。全米コミュニティ・カレッジ協会の推定によれば新しく医療関係の仕事に就く人々の半分以上はコミュニティ・カレッジで学んだ人々であり、2003年度の時点では看護師資格試験の受験者の6割はコミュニティ・カレッジを卒業した人々であった。

竹中平蔵氏はコミュニティ・カレッジをセーフティーネットとして位置づけし、以下のように述べているが私も全くそう思っている。

『私はアメリカの社会には、日本にはないセーフティーネットがあると思います。コミュニティーカレッジのシステムはすごいと思う。あれはようするにセーフティーネットなんですね。1回失敗した人が、もう1回上に行ける仕組みです』

3 地方に労働の権限を移譲して、教育と雇用を同じ管轄にする

日本の今後は必ずコミュニティカレッジが必要だと思う。いままで日本ではそれがどうしてなかったのかは、
1)コミュニティの未成熟(地域自治体はあっても市民自らの連携は少なかった)
2)再就職や転職は女性のことであり、男性は終身雇用で生きられるので、社会的関心にならなかった。
3)教育は文部科学省、労働は厚生労働省に分かれていて、両省庁は融合されず、人生を通しての職業教育(キャリアトレーニング)の重要性は両省庁の狭間でこぼれてしまっていた。
4)女性を含むマイノリティーが仕事をして生きるという最も尊いことがないがしろにされてきた。

以上の背景は全て過去のことになってしまっている。